鍼灸治療の適応症INDICATION
- 小雀斎漢方針灸治療院での鍼灸治療について
症状・疾患別に説明いたします。
知りたい症状をお選びください。
喘息の鍼灸治療
中医学における喘息とは
中医学において喘息は「哮喘(こうぜん)」と呼ばれています。
哮
発作性の喘鳴を伴う呼吸困難。
喘
呼吸の促迫で喘鳴を伴わない。
哮病・哮喘
いわゆる喘息にあたる。一疾患。
喘証・気喘
呼吸促迫の症状を指す。
病因病機(発病のメカニズム)
喘息の病因病機
健康な人と喘息患者の違いは、体内に「伏飲」と呼ばれる痰があることだとされています。伏飲は体質や飲食の不摂生により、全身の津液(水分)の代謝の原動力となっている脾の働きが低下し(脾失健運)、津液が停滞することで生じた痰の一種です。
急激な気候変化や刺激性の食物・疲労などが誘因となり、普段は体内でおとなしくしている伏飲が動き出すことで喘息発作が現れると考えられています。
喘息発作には熱の特性が現れた「熱哮」と冷えの特性が現れた「寒哮」があり、発作時にそれぞれ体内の気や陰・陽を損傷します。
緩解期には発作時に損傷した物質の違いにより「肺虚証(肺気虚・肺陰虚)」・「脾虚証(脾気虚・脾陽虚)」・「腎虚証(腎気虚・腎陰虚・腎陽虚)」などの証型になることが多いとされており、これらの証型と伏飲が存在する病態になっていると考えられています。
治療の考え方
基本的に発作時は現代医学による処置を行いますが、環境が整っていれば鍼灸治療を併用することもできます。発作時の病態である「痰阻気道・肺失宣降」を是正する降逆順気・袪痰平喘などの作用を持つ腧穴(ツボ)に鍼灸を施します。
中医学が本領を発揮するのは緩解期です。喘息患者は緩解期になるとほぼ無症状となりますが、中医学では「伏飲」の存在が喘息の本質であると考えていますから、伏飲を除去し、さらに伏飲を作り出すことになった脾の失調を是正する治療を行います。
診察のポイント
1) 病理の性質
(1) 発作期
邪盛(実証)が主。
(2) 緩解期
正虚(虚証)が主。
(3) 大発作期
正虚・邪盛がともに見られる(虚実挟雑証)。
2) 発作期の性質
(1) 寒哮
呼吸切迫、喉に低い哮声がある。
吐き出す痰質は薄く白色で泡立っている。
口渇は無いが温かい飲み物を好む。
舌淡苔白滑、脈弦緊、浮緊。
(2) 熱哮
喉の痰音はノコギリをひいているかのようで、息が非常に粗い。
痰質は黄色で濃く非常に粘っていてなかなか吐き出せない。
口渇があり冷たいものを好んで飲む。
舌紅苔黄膩、脈滑数。
喘息発作期の鍼灸治療
発作期の標準配穴
尺沢
強い粛肺、止哮平喘の働きがあります。
孔最
強い粛肺、止哮平喘の働きがあります。
天突
降逆順気利肺の作用を備え、発作と抑えます。
膻中
寛胸理気、舒展気機の働きがあり、肺の気機を整えます。
豊隆
強い袪痰の作用を備えるため、伏飲の除去に効果があります。
代表証型
1) 風寒[ 寒飲伏肺・寒哮 ]
症状
呼吸切迫、喉に低い哮声がある。吐き出す痰質は薄く白色で泡立っている。口渇は無いが温かい飲み物を好む。顔色は暗く青味がかっていて、寒がる。舌淡苔白滑、脈弦緊・浮緊。
処方例
標準配穴+列欠・風門など
2) 痰熱[ 痰熱遏肺・熱哮 ]
症状
喉の痰音はノコギリをひいているかのようで、息が非常に粗い。痰質は黄色で濃く非常に粘っていてなかなか吐き出せない。口渇があり冷たいものを好んで飲む。舌紅苔黄膩、脈滑数。
処方例
標準配穴+大椎・太白など
喘息緩解期の代表証型と鍼灸治療
緩解期の標準配穴
陰陵泉
脾の働きを助け、水湿の除去に役立ちます。
豊隆
強い袪痰の作用を備えるため、伏飲の除去に効果があります。
足三里
脾胃の働きを強化し、伏飲生成の源を絶ちます。
代表証型
1) 肺気虚
症状
呼吸が短く、声が低い、白色で質の薄い痰を吐く。顔色は白っぽく、平素から汗が多く、寒がりで風邪をひきやすい。気候の変化が激しいと発作を起こし、発作前には噴嚔を頻発し、質の薄い透明の鼻汁が見られる。舌淡、脈細弱。
処方例
標準配穴+肺兪・太淵・中府など
2) 脾気虚
症状
平素から痰が多い、顔色は黄色っぽく精彩が無い、倦怠無力感、食欲不振、泥状便。飲食の不当により発作を起しやすい。舌質淡、苔白膩、白滑、脈細軟。
処方例
標準配穴+太白・脾兪・中脘など
3) 腎気虚
症状
平素から呼吸が短く息が切れる、活動後悪化し、吸息が特に困難。腰膝酸軟、めまい・耳鳴り。疲れると発作を起しやすい、寒がりで手足が冷える、顔色は青白い。舌質淡、脈沈細。
処方例
標準配穴+太渓・腎兪・復溜など
[参考書籍]
新世紀全国高等中医薬院校針灸専業創新教材 中医内科学.中国中医薬出版社
新世紀全国高等中医薬院校企劃教材 針灸治療学.中国中医薬出版社
この記事を書いた人
渡邉大祐(医学博士・はり師きゅう師)