鍼灸治療の適応症INDICATION
- 小雀斎漢方針灸治療院での鍼灸治療について
症状・疾患別に説明いたします。
知りたい症状をお選びください。
更年期障害の鍼灸治療
現代医学では閉経期前後に卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少することによって生じる幾つかの症状の集まり(症候群)のことを更年期障害といいます。婦人科ではこの卵胞ホルモンを中心としたホルモンの補充療法(HRT:Hormone Replacement Therapy)が治療法の中心となり、内服薬や貼り薬や塗り薬によって人工的にホルモンを補充します。この治療で症候がうまくコントロールされている患者さんも多いようです。
中医学では更年期障害を「絶経前後諸証(ぜっけいぜんごしょしょう)」や「経断前後諸証(けいだんぜんごしょしょう)」と呼び、閉経前後の女性に、閉経や月経失調を中心とし、まめい耳鳴・ほてり・出汗・イライラして怒りやすい・顔面紅潮・動悸・不眠・腰や背中のだるさや痛み・むくみ・食欲不振・下痢・皮膚のアリが這うような感覚・気分が落ち着かないなどの症状が出現する病と定義づけられています。
およそ二千年前の医学書『黄帝内経・素問(こうていだいけい・そもん)』の最初の章に女性の閉経についての記載があります。『49歳になると妊娠を司る働きをもつ任脈と太衝脈が衰え、天癸がつきて、月経が停止する。それゆえ容姿も崩れ、子も作れなくなる(七七任脉虚、太衝脉衰少、天癸竭、地道不通。故形壞而無子也)。』この文に天癸(てんき)という語句が出てきます。天癸とは父母から受け継いだ先天の精が化生して生殖能力を発揮するように変化した物質のことです。当然、男性にも天癸があります(男性の天癸がつきるのは56歳と記述されています)。天癸は臓腑では腎に蓄えられているとされ、女性では更年期に急速に衰えるのです(男性の天癸は徐々に減衰していくため、男性更年期は少ないと言われます)。腎における天癸の急速な減少は、陰陽失調を引き起こします。陰陽失調は陽気と陰気(陰血)のアンバランスです。のぼせや冷えといった更年期障害の典型的症状は中医学的に見れば陰陽失調の表現そのものなのです。
治療は不足した天癸の本になる腎精・陰血・陽気の補充です。婦人科でホルモンを補充するのと似ているといえば似ていますが、個々の患者さんの証によって補腎益精・滋陰養血・補腎壮陽などのように補充すべきものを区別するところが中医学の特徴です。
更年期障害の鍼灸治療には「腎兪(じんゆ)・三陰交(さんいんこう)・関元(かんげん)」などの腧穴(いわゆるツボ)の効果が高いと言われています。腎精の補充にはこれらの腧穴に加え「太渓(たいけい)・志室(ししつ)」といった補益腎精の働きを持つ腧穴へ鍼を施します。陰血の補充には「照海(しょうかい)・膈兪(かくゆ)」などの滋陰養血の働きを持つ腧穴へ鍼を施します。陽気の補充は鍼灸治療が得意とするところで「命門(めいもん)・神闕(しんけつ)」など温陽作用に優れた腧穴に灸を施すことで行います。
以上が本治といわれる陰陽調整のための根本治療ですが、のぼせ・冷え・めまい・不眠・イライラなど個別の症状にもそれぞれを緩和する働きを持つ腧穴を配合し治療を行います。
患者さんひとりひとりの病態把握を行い、最も適した腧穴と鍼・灸の組み合わせによるオーダーメイドの治療を提供できるのが中医鍼灸の強みです。
また、漢方薬を併用すると効果が一層高まることがあります。
[参考書籍]
新世紀全国高等中医薬院校針灸専業創新教材 中医婦科学.中国中医薬出版社
新世紀全国高等中医薬院校企劃教材 針灸治療学.中国中医薬出版社
この記事を書いた人
渡邉大祐(医学博士・はり師きゅう師)