鍼灸治療の適応症INDICATION
- 小雀斎漢方針灸治療院での鍼灸治療について
症状・疾患別に説明いたします。
知りたい症状をお選びください。
不眠の鍼灸治療
中医学における不眠とは
不眠とは、各種の睡眠障害を指します。軽いものであれば、なかなか寝付けない・入睡には問題ないがすぐに目が覚めるなどの症状が見られます。重いものでは、夜通し眠りに付けないなどの症状が現れます。
中医学において不眠は「不寐(ふび・ふしん)」「失眠(しつみん)」と呼ばれています。
また、不眠について中医学の原典『黄帝内経』では「目不瞑(もくふめい)」「不得眠(ふとくみん)」「不得臥(ふとくが)」など、『難経』では「不寝(不寐:ふしん)」と記載されています。
病因病機(発症のメカニズム)
現代医学において精神活動は脳の機能とされていますが、中医学では臓腑のひとつ心の働きと考えられています。
精神活動を管理する心の働きを「主神志」といいます。
なんらかの原因で「主神志」の働きが失調すると睡眠障害が出現します。
「主神志」を乱す代表的な病証には実証に属す「痰熱擾心」や「肝火上炎」、虚証に属す「心脾両虚」、虚実挟雑証の「心腎不交」などがあります。
暴飲暴食などの飲食の不摂生や慢性病・過労などで脾胃の働き、特に運化作用が低下すると体内に痰湿が発生します。この痰湿が長期間体内から排除できずにいると徐々に熱化し痰熱に変化します。心は熱にとても弱いですので、痰熱の熱が心に影響をおよぼし「主神志」が失調することで不眠が発生します。
ストレスなどの精神刺激を苦手とする肝の疏泄作用が失調すると気滞が生じ、肝気鬱結となります。気滞が長期間解消されずにいると徐々に熱化し、実熱となります(肝火上炎)。肝火が心に影響をおよぼし「主神志」が失調することで不眠が発生します。
正常な人体の機能として、心陽は腎陰を温め、腎陰は心陽の亢進を抑制する関係があります(心腎相交)。
なんらかの原因により心陽が亢進したり、腎陰が損傷すると、心腎相交の関係に異常が生じ、心陽は腎陰を消耗し、腎陰は心陽の亢進を抑えられないという悪循環に陥ることがあります(心腎不交)。心陽亢進による熱が「主神志」を失調させることで不眠が発生します。
正常な人体の機能として、心血は脾を滋潤・栄養し、脾の働き(脾気)により生成された血は、心血を補う相互関係が存在します。
なんらかの原因で、心血や脾気が不足すると、互いに補うことができなくなり、両者共に損傷し回復できない悪循環に陥ることがあります(心脾両虚・気血両虚)。心への栄養が不足すると「主神志」が失調し不眠が発生します。
診察のポイント
不寐の特徴
入睡困難・多夢 : 心脾両虚よるものに多い。
入眠困難 : 肝火によるものに多い。
夜通し眠れない : 痰熱によるものに多い。
中途覚醒が多い : 心腎不交によるものに多い。
眠りにくが夢によって目が覚め、その後眠れないもの : 心胆気虚によるものに多い。
不眠の鍼灸治療
不眠鍼灸治療の標準配穴(ツボの組み合わせ)
神門(しんもん)
心の持つ精神活動を管理する働きを調和し、精神状態を安定させます。
内関(ないかん)
心の持つ精神活動を管理する働きを調和し、精神状態を安定させます。
百会(ひゃくえ)
頭の活動を落ち着かせ、精神状態を安定させます。
安眠(あんみん)
経験的に眠りを助ける効果があると言われています。
代表証型
1) 痰熱
症状
不眠、胸苦しく落ち着かず夜通し眠れない。悪心、げっぷ、頭が重い、めまい、口が苦いなどの症状を呈する。舌紅苔黄膩、脈滑数。
処方例
標準配穴+中脘・豊隆・内庭
2) 肝火
症状
不眠、なかなか寝付けない、落ち着かずそわそわする、イライラ、怒り易い、目が赤い、耳鳴、胸や脇が痛む、口が苦いなどの症状を呈する。舌苔薄黄、脈弦数。
処方例
標準配穴+行間・足竅陰・風池
3) 心脾両虚
症状
夜がふけても寝付けない、眠れても夢を良く見て目が覚める。動悸、物忘れ、汗が出やすい、顔色に精彩がない、精神疲労、倦怠感、泥状便などの症状を呈する。舌質淡、脈細弱。
処方例
標準配穴+脾兪・心兪・三陰交
4) 心腎不交
症状
不眠、落ち着かずそわそわする、または少し眠ると目が覚める。掌・足の裏が火照る、寝汗、口や咽喉の乾き、めまい、耳鳴、物忘れ、腰膝のだるさなどの症状を呈する。舌紅苔少津・少苔、脈細数。
処方例
標準配穴+太渓・復溜・大陵
[参考書籍]
新世紀全国高等中医薬院校針灸専業創新教材 中医内科学.中国中医薬出版社
新世紀全国高等中医薬院校企劃教材 針灸治療学.中国中医薬出版社
この記事を書いた人
渡邉大祐(医学博士・はり師きゅう師)