鍼灸治療の適応症INDICATION
- 小雀斎漢方針灸治療院での鍼灸治療について
症状・疾患別に説明いたします。
知りたい症状をお選びください。
不妊の鍼灸治療
中医学における妊娠のしくみ
1) 妊娠の機序
女性は思春期の発育以降、閉経期までの期間に、特殊な病変がなく、男女性交により双方の精が結合することで胎が形成される。だたし、胎の形成には男女双方に一定の条件を備える必要があるとされる。
(「両神(精)相搏、合而成形。」『霊枢・決気』)
2) 妊娠の前提条件
成熟発育後、女性は定期的に来潮し、男性は精気溢瀉し生殖機能を有するようになる。
「女子二七而天癸至、任脈通、太衝脈盛、月事以時下、故有子。」(『素問・上古天真論』)
「男子二八、腎気盛、天癸至、精気溢瀉、陰陽合、故有子。」(『素問・上古天真論』)
男精壮には、正常な精液と正常な性機能の意味が込められており、女経調には、正常な月経と排卵の意味が含まれている。
「男精壮而女経調、有子之道也。」(『女科正宗・広嗣総論』)
一般的に女性は21~35歳が生育能力の旺盛な時期とされており、この佳期に陰陽が和合すれば妊娠しやすい。
男女の精が妙合して胎を形成すると、腎気・天癸・衝任・胞宮の滋養と調整のもと、徐々に発育成長する。十ヶ月が経過すると「瓜熟蒂落」、分娩となる。
妊娠の機序
妊娠の要点
中医における不妊症とは
中医学では不妊症を「不孕(ふよう)」「絶嗣(ぜつし)」などと呼びます。
中医学における不妊症の主要対象は、相対的不妊です。ここでは女性の相対的不妊について解説します。
1 不妊症の分類
1) 原発性と続発性
(1) 全不産(原発性不妊症)
出産可能年齢の女性で、2年以上の夫との同居・正常な性生活があり、パートナーの生殖機能は正常で、避妊もしていないが妊娠しない者。
(2) 断続(続発性不妊症)
妊娠(出産)経験はあるが、避妊もしていないのに2年以上妊娠しない者。
2) 絶対的不妊と相対的不妊
(1) 絶対的不妊
夫婦の一方に先天的・後天的な生殖器官の解剖生理的是正不能な欠陥があり妊娠が出来ない。
(2) 相対的不妊
夫婦の一方に妊娠を障害するなんらかの要素があるが、その要素を是正すれば妊娠できる。
不妊症の代表証型と鍼灸治療
「妊娠の機序」を踏まえると、不妊症の主要病機は「腎気不足、気血虧虚、衝任失調、胞脈不通」と考えられます。
不妊症鍼灸治療の標準配穴(ツボの組合せ)
関元(かんげん)
妊娠とその維持に大きな関わりを持つとされる任脈・衝脈を調和させる働きがあります。
帰来(きらい)
不妊症治療の経験穴です。任脈から胞宮(子宮)につながる経絡である胞絡の流れを良くします。
子宮(しきゅう)
不妊症治療の経験穴です。任脈から胞宮(子宮)につながる経絡である胞絡の流れを良くします。
三陰交(さんいんこう)
婦人科疾患治療の常用穴。妊娠と関わりの深い肝・脾・腎を調整する働きを持ちます。
次髎(じりょう)
婦人科疾患治療の常用穴。
代表証型
不妊症の主要病機を招く代表証型には「腎気虚弱」「腎陽不足」「腎陰虧虚」「肝気鬱結」「痰湿内阻」「瘀滞胞宮」などがあります。
1) 腎気虚弱
(1) 症状
不妊、月経不調または3ヶ月以上の月経停止、経量は多いまたは少ない、経色が薄い、精神疲労、倦怠感、めまい、耳鳴、腰膝がだるい、尿量が多く透明、舌淡、脈沈弱などの症状・所見を呈する。
(2) 治法
補益腎気、調補衝任
(3) 処方例
標準配穴+腎兪・太渓・足三里など
2) 腎陽不足
(1) 症状
不妊、月経周期の遅れ、月経量が少なく経色が暗い、または3ヶ月以上の月経停止、性欲低下、下腹部の冷え、手足の冷え、帯下の量が多く水様で稀薄、めまい、耳鳴、腰膝がだるく冷えて痛む、尿量が多く透明、顔色はくすんで暗い、舌淡、脈沈遅などの症状・所見を呈する。
(2) 治法
温補腎陽、調補衝任
(3) 処方例
標準配穴+命門・神闕・足三里など
3) 腎陰虧虚
(1) 症状
不妊、月経周期の短縮、月経期間が長い、ポタポタと出血が終わらない、月経量は少なく色は鮮紅、痩せ型で腰膝がだるい、めまい、耳鳴、てのひらが火照る、不安感が強い、不眠で夢をよく見る、舌質偏紅、苔少、脈細または細数などの症状・所見を呈する。
(2) 治法
滋補腎陰、調補衝任
(3) 処方例
標準配穴+太渓・復溜・足三里など
4) 肝気鬱結
(1) 症状
不妊、月経周期は不定、月経量も不定で色は暗く血塊が混じる、月経前に下腹部が張って痛む・イライラする、乳房や脇が張って痛む、精神抑鬱、ため息が多い、舌質暗紅、舌辺有瘀斑、脈弦または弦渋などの症状・所見を呈する。
(2) 治法
疏肝解鬱、理血調経
(3) 処方例
標準配穴+太衝・期門・膈兪など
5) 痰湿内阻
(1) 症状
不妊、月経周期の遅れまたは3ヶ月以上の月経停止、太り気味、帯下の量が多く色は白・質が濃く無臭、顔のむくみ、動悸、めまい、胸のつかえ、舌淡胖、苔白膩、脈滑などの症状・所見を呈する。
(2) 治法
化痰袪湿、行滞調経
(3) 処方例
標準配穴+陰陵泉・豊隆・足三里など
6) 瘀滞胞宮
(1) 症状
不妊、月経周期の遅れ、月経量は少なく色は紫黒で血塊が混じる、月経時の腹痛、舌質紫暗または舌辺有瘀点、脈弦渋などの症状・所見を呈する。
(2) 治法
活血化瘀、温通調経
(3) 処方例
標準配穴+血海・膈兪など
[参考書籍]
新世紀全国高等中医薬院校針灸専業創新教材 中医婦科学.中国中医薬出版社
新世紀全国高等中医薬院校企劃教材 針灸治療学.中国中医薬出版社
この記事を書いた人
渡邉大祐(医学博士・はり師きゅう師)